「黒船」になれなかったVodafone・・・消滅へ

3月3日、ソフトバンクVodafone KK買収の最終調整に入ったとロイターが伝え、産経新聞なども追報しています。今月中に決まるとか。ソフトバンクBBモバイルの社名ですでに携帯事業に新規参入を決めています。他社がソフトバンクVodafoneW-CDMA網でMVNOまたはローミングと伝えていた情報の真相がこれだったということでしょう。Vodafone KKは2.0Mhz、BBモバイルは1.7Mhzで周波数が異なります。ソフトバンクは2.0Mhzと1.7Mhzの二つの周波数を所有することになるわけで、J-PhoneVodafoneになったように、Vodafoneソフトバンクフォンにでもなるのでしょうか。
VodafoneJ-Phoneを買い取ったことは、Vodafone自身にとっても、そのユーザにとっても悲劇以外のなにものでもありませんでした。Vodafoneの経営は素人目に見ても幼稚すぎました。日本市場が閉鎖的だから、という問題も確かにあるのですが、その中でVodafoneは世界で培ったアドバンテージを生かす方向でなく、日本型のコンテンツビジネスモデルを半端に模倣しようとしていたようで、どの同業他社よりも日本的なキャリア主導的、ユーザ無視の独善的な経営を進めようとしていたように見えます。それでは、日本市場の側には、せっかく外資という「黒船」に来てもらった意味がないわけで、私は正直、「やっと出て行ってくれた」と快哉を叫びたい気持ちです。「10の約束」を破り、HPからひっそり削除していたあたりでVodafoneが日本から追い出される運命は決まっていたということでしょう。企業にとってカスタマーとの信頼が最重要だということは日本市場だろうが、世界だろうが変わることはないはずです。

たとえば、SIM Lockの問題ひとつを取ってみても、Vodafoneはせっかく国内唯一リリース4という世界に互換性のある規格の基地局を使っているのですから、逆手に取った生かし方があったはずです。DoCoMoがリリース99という特殊な基地局を使い、auが上下逆のCDMA2000の方式を使っている事情があるのだから、彼らには逆立ちしてもできないサービスを展開するチャンスでした。つまり、それなりの料金を取ってSIM Unlockすればいいだけのことです。その代わりに、Vodafoneの端末をすべてリリース99非対応のものにすれば、それだけでVodafoneFOMAに一切客を奪われることなく、サービスでFOMAにアドバンテージを得られたはずでした。Vodafoneは国内にはFOMAしか商売敵がいなかったのですから。
英国Vodafoneがやっているように、一定の料金を取った上でUnlockすれば、海外に転売されるデメリットをほぼ相殺することもできるし、転売業者の事業基盤を損なうこともできます。それなのに、Unlockingされることにヒステリックに反応したVodafoneは無意味に内外に敵を作り、SIM Unlock業者・転売業者とのいたちごっこというナンセンス極まりない別の戦争に明け暮れることになりました。その結果、Unlockされた次々に端末を店頭から引き上げざるを得ず、ユーザにとっては「ショップへいっても、買える端末がない」というバカバカしい事態になったのです。Unlockなんて、世界のどこでも当たり前なことを、世界のVodafoneが受け入れられなかったとは皮肉です。Vodafoneは、あまりに無邪気すぎました。商売敵でなく、ユーザにまで敵意をむき出しにして、はるか日本で孤立無援でした。

対するソフトバンクに、新生Vodafoneのいい経営が期待できるかというと、不透明です。ヤフーBBの価格破壊は確かに画期的で、日本でのブロードバンドの価格を劇的に下げました。が、釣った魚に餌をやらないというか、ヤフーBBは現在では同業他社に比べて決して安いサービスではなくなっている。サービスで他社に優っていたのは最初だけで、決して、ユーザがいつまでも安心して、信頼し続けていい会社ではない気がしています。ソフトバンクは「安売り競争はしない」と、明言してもいます。しかし、完全な新規参入ならばともかく、Vodafoneの経営を再建するにはどうすればいいか、類まれなる経営手腕を持つ孫正義氏にならば分かりそうなものだ、という気もします。私はDoCoMoVodafoneをみて、ここしばらく「国産端末は二度と使わず、国内キャリアのサービスも最低限しか使わない」と、決めてしまっていましたが、ソフトバンクが使える端末、使えるサービスを提供してくれたら、と強く願います。

Vodafoneが日本から出て行ってくれるのは一方で喜ばしいニュースですが、またも日本の携帯電話が鎖国され、世界から取り残され、沈んでいくのではないか、というのも心配すべきことだと思います。W-CDMA/GSMSIMカード方式を採用し、世界との互換性を確保してくれたことに関しては、Vodafoneなくしてありえないことでしたから。今、私がJASJARを日本で使えているのはVodafoneUSIMがあるからです。もっとも、Vodafone側はいつもの調子で、「わが社の端末で使え」と繰り返しているようですけど。

日本の携帯業界にとってVodafoneがどうであったか、ということに関してだけでなく、本当はもうひとつの観点からVodafoneの日本撤退を見なければなりません。それは、Vodafoneは当初、グループが世界の市場に供給する端末の開発基地としての日本に大きな期待を持っていたということです。すなわち、日本のSHARPTOSHIBA、SANYOといった会社の端末を、世界中のVodafoneグループで販売しようと考えていました。しかし、Vodafoneは日本のテクノロジーがすでに世界の先端ではないこと、NokiaSamsungに比べて劣り、世界から取り残されてしまったことに気づいたのでしょう。以前からVodafone英国本社は「あとは端末だけだ」と、自社の端末ラインナップが劣ることを自覚していました。つまり、Vodafoneは日本市場への挑戦に失敗し、諦めた、というだけでなく、日本の技術力を見限り、見捨てたわけです。Vodafoneが英国他世界の販売している端末のうち、すぐれた商品といえばNokiaMotorolaSamsung、LGが供給しており、わずかにSHARP製品が姿を見せているに過ぎません。日本のITは期待に応えられませんでした。